関根麻里さんが「他の曜日より英語のレベルを高くしています」と紹介していた『走れメロス』の日本語訳にチャレンジしてみました。
【走れメロス第1話】
メロスはたいへん怒っていた(メロスは激怒した)。街に戻ったのは2年ぶりだった。何もかも変わっていた。メロスは老人に、何が起こったのかと尋ねた。
「王のせいだ。王が人々を殺すのだ。誰もみな危険な思想を持っていると、王は信じている。だから義理の息子を殺し、自分の息子も殺してしまった。自分の妻でさえ殺したのだ」
「王はご乱心か?」
「そうではない。ただもう誰も信じられないのだ。だから王は命じたのだ、裕福な家族は、一人を人質として城に送るようにと。人質を送らないと、皆殺しにすると。今日も6人が磔に処された」
「信じられない」
メロスはやめさせるために王のもとへ行った。しかし、城で兵士に止められた。メロスがナイフを持っているとわかると、兵士はメロスを王のところへ連れて行った。
「お前はなぜナイフを持っているのか?」
「悪い王からこの街を救うためです」
王は笑った。悲しい笑いだった。
「ハハハ、私のことをわかっていないね」
「はい、わかっておりません。でも、人々を殺すと聞きました。人々を信じることができないから、と。自らの民を信じられない王は、よい王にはなれません。」
「私の民だと? その者たちのせいでこうなったのだ。その者たちが教えてくれたのだよ、誰も信じられないと。私だって平和を望んでいるのだよ、わかるだろう」
メロスが笑う番だった。
「ハッ! 平和だと? あなたの頭の中は、王の座にとどまることでいっぱいなのだ」
「黙れ! 磔にしたらお前は泣きながら謝ることになるだろう。命乞いをするためなら何だって言えるのだ」
「死ぬ覚悟はできています。ただ、あと3日間だけ生きさせていただきたい。もうすぐ結婚する妹がいるのです。唯一の身内です。妹の結婚式が終わったら戻ってくると約束します」
「私はそんなに愚かではないぞ! 鳥を放せば、二度と戻ってはこないのだ」
「私が3日目の日暮れまでに戻らなかったら、私の親友を殺しても構わない。彼の名前はセリヌンティウスだ。彼は私を信じている」
王は冷ややかな笑みを浮かべた。王はこれこそ、人間は信じられないと人々に示すことができる格好の機会だと考えた。
「よかろう。3日間やろう。ところで、戻るのが日没後だったら、お前は殺さないでおこう」
「日没後? では私の友は殺すと?」
「その通り。死にたくなければ、遅れて帰って来るがよい」
メロスの友人セリヌンティウスが城に連れてこられた。メロスはすべてを説明すると、二人は固く抱き合った。満天の星空の下、メロスは走り始めた。
【走れメロス第2話】
メロスは一晩中走り続け、村にたどり着いた。妹は、メロスがあまりに疲れていて汚れているのを見て驚いた。妹は何があったのか尋ねた。
「はぁはぁ、何でもないよ、大丈夫だ。でもまたすぐに町に戻らなくてはいけない。だから明日お前の結婚式を挙げよう。さあ、みんなに伝えてきておくれ」
メロスは疲れていたが、結婚式の準備をした。準備がおわると、メロスは床に倒れ込み、そのまま寝てしまった。
結婚式が始まったのは、メロスが王と約束した2日目の正午だった。しかし式が終わる前に、空は暗くなり、雨が降り始めた。人々は思った…
「何か悪いことでも起こるのか…」
それでもみな歌ったり踊ったりしていた。メロスもしばしの間、王との約束を忘れた。しかし、また思い出して考えた…
「私の身体は私だけのものではない。友が待っているのだ」
メロスは幸せそうな妹を見つけて言った…
「私の大切な妹よ、結婚おめでとう。私はもう寝るよ。起きたら急いで町へ戻らなくてはならない。でも悲しんだり、孤独を感じたりしなくていいんだよ。今では、お前にはやさしい夫がいるからね。お前も知っている通り、私は嘘をついたり、お互いのことを信じられない人間が好きではない。このことを忘れないで、夫に隠し事などしてはいけないよ」
メロスは3日目の明け方まで眠った。まだ小雨が降っていた。それでもメロスは雨の中を矢のように走って行った。メロスは思った…
「私は今夜処刑される。私は死に向かって走っているのだ。しかし親友のために私は走らなくてはならない」
もうこれ以上走ることはできない、とメロスは何度も思った。しかし自分に言い聞かせた。「お前ならできる」と。そして走り続けた。日は高くなり、昼までに雨は止んだ。メロスは城まであと半分のところまで来た。しかし突然、川の手前で足を止めた。
「たいへんだ! 橋がなくなっている!」
雨のせいで、川の流れがたいへん速くなっていた。メロスは天を仰ぎ、叫んだ。
「神様、どうか川の流れを緩やかにしてください。日没前に城に戻らなくてはいけないのです。そうしないと友の命がないのです!」
しかし川の流れはますます激しくなった。メロスにはどうすることもできなかった。泳いで川を渡るしかない。
「神様、見てください。私の愛と誠の強さは、この急流をものともしません」
水しぶきは、まるで100匹の大蛇のようだった。
しかし、メロスは飛び込んだ。メロスは全身の力を振り絞り、流れに負けないように泳いだ。神様はメロスを哀れんだのか、流れはメロスを向こう岸に押し流した。
「神様、ありがとうございます」
日は西の空に傾きかけていた。メロスは急がなくてはいけなかった。突然、何人もの山賊がメロスの目の前に飛び出してきた。
「待て!」
(つづく)
手に汗にぎる展開です…
おかげで英語に集中できました。
【走れメロス第3話】
「お前たちは何をしているのだ? 私は日没前に城に戻らねばならないのだ」
山賊たちはメロスを取り囲んだ。
「持ち物を全部よこせ」
「何も持っていない。命だけだ。それも王の手の中にある」
「お前の命を頂戴する」
「何だと?待てよ! 王の使者なのか?」
山賊たちは答えなかった。メロスめがけてこん棒を振り上げた。しかしメロスは山賊の一人を殴り倒し、棒を奪った。
「悪いがこうするより仕方がない」
メロスは3人の山賊を倒し、走り去った。
暑い午後だった。メロスは疲れて弱りはてた。すぐに走れなくなり、倒れ込んだ。立ち上がろうとしても無駄だった。メロスは天を仰ぎ、言った。
「急流の川を泳いで渡り、山賊とも戦った。まだ走れるはずだ。走らなければ、親友のセリヌンティウスは死んでしまう。なぜなら彼は私のことを信じているから。王はそれを望んでいるのだ。」
肉体の疲れは、人を弱気にする。強いメロスでさえ、弱気になってきた。
「約束を守るために精いっぱいやってきた。限界まで走ろう。私は邪悪な人間ではない。だが、私は笑いものになるだろう。私の家族も笑われてしまう」
メロスは独り言を続けた。
「王は、私に遅れて戻るように言った。遅れれば私の命を助けると言ったのだ…。そんなことを言う王が憎い。だが、そうなるかもしれない。王は私を笑いものにするだろう。そして私の命は助かる。しかしそれは死よりも恥ずべきことだ。セリヌンティウス、君を一人で死なせるわけにはいかない。死ぬときは私も一緒だ。少なくとも、君だけは私を信じているとわかっている。いや、もしかしたら…」
メロスに別の考えが浮かんだ。
「人を信じることができるのは私だけなのかもしれない。正義、真実、愛…。人々はこれらのことを、ただ耳に心地よい言葉としか思っていない。人は生きるために人を殺してきたのだ。だから、私も? 私は邪悪な人間だ。もうどうにでもなれ」
メロスはあきらめて地面に伏した。目を閉じると、水の流れる音がした。メロスはゆっくり起き上がり、足元の近くの岩から水が湧き出ているのを見つけた。メロスは水を飲み、大きく息を吐いた。夢から覚めたようだった。
「歩けそうだ」
メロスは力が湧いてくるのを感じた。希望も戻った。
「日没までまだ時間がある。私の命はどうでもいい。大切なのは、私を信じ切っている友との約束だけだ。走らねば。走れ、メロス!」
最終回に向けて、私も走ります。
毎回、日本語訳を読んで英語学習を続ける方々のために!
【走れメロス最終回】
メロスは道を歩く人々を押しのけ、疾風のごとく走った。野原を駆け抜け、小川を飛び越え、傾く太陽より10倍も速く走った。メロスは旅の一行が話しているのを聞いた。
「きっとあの男はもう十字架にかけられただろう」
それを聞いてメロスはいっそう速く走った。衣服はもうほとんどなくなっていて、息もできず、吐血したのも一度ではなかった。そのとき、メロスは遠くに城の塔を見た。
もうすぐだった。ちょうどそのときメロスに近づいて来た者がいた。
「メロス様! 私はあなたの友、セリヌンティウスの下で働いています」
「なんだって?」
「走るのはおやめください。もはやあの方を助けることはできません」
「いいや、まだ空に太陽がある」
「しかし、ご自身の命を考えなければいけません」
「私の命など重要ではない。戻ってくると約束したのだ」
「セリヌンティウスも同じことを言っていました。処刑場に連れて行かれて、王様は彼を侮辱しました。それでもセリヌンティウスは、メロスは戻ってくる、と言っていました」
「だからこそ私は走らなくてはいけないのだ。彼は私のことを信じている。私はおそらく遅れてしまうだろう。しかし、もうそんなことはどうでもいい。私はもっと大きなことを守るために走っているのだ」
「メロス様、何をおっしゃっているのかわかりません。でも、走らなければならないのなら、走ってください」
まさに太陽が沈みかけたとき、メロスは処刑場に着いた。約束を果たしたのだ! しかしそのときメロスが見たのは、兵士たちがセリヌンティウスを十字架にかけようとしているところだった。メロスは最後の力を振り絞り、群衆をかき分けて走って行った。
「待て! 彼を殺してはならぬ。私は戻ってきた。私はここにいる」
メロスはセリヌンティウスに駆け寄り、足元にすがりついた。
群衆は歓声を上げた。セリヌンティウスは自由の身となった。メロスは目に涙を浮かべて言った。
「セリヌンティウス、私を殴れ。一度だけ、悪い夢を見た。私を殴ってくれないと、君の友人でいる資格がないのだ」
セリヌンティウスはすべてを理解した。セリヌンティウスはあまりに強くメロスを殴ったので、その音が大きく響いた。そして笑って言った…
「さあ、今度は君が私を殴る番だ。私も君を信じられないときがあった。たった一度だけだったが、生まれて初めて君のことを信じられなかった。君も私を殴らなくてはいけない」
メロスは友の頬を殴った。そして二人は抱き合った。
「友よ、ありがとう」
王は群衆の後ろで二人を見ていた。王は二人の所へ来てこう言った。
「お前たちは私に大切なことを教えてくれた。人はお互いに信じられるということを見せてくれたのだ。私の友になってくれないか」
群衆は大きな歓声を上げた。そのとき、一人の少女が赤いマントを持って、メロスのところへやってきた。メロスは何のことかわからなかったので、セリヌンティウスは言った…
「メロス、君は何も身に着けていないじゃないか。このかわいらしいお嬢さんは、君の身体を人が見ているのがいやなんだよ」
たくましいメロスは赤くなった。
(おわり)
毎回ピアノが雰囲気を盛り上げていましたね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
来月も、日本語訳を続けようかな?
走れ、わたし!?
『ボキャブライダー』にもハマってます↓