エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
古典が語る西洋の知恵
『熊と旅人』
小さな男と大きな男が同じ場所へ向かっておりました。二人は自然と一緒に歩くようになりました。
しばらく行くと、大きな森がありました。
小さな男は言いました。
「森の中を歩くのはいやだな。森には危険な動物がいっぱいいるらしい」
「そうだね。でも道は一本しかないから、ここを通って行かないと」
「一緒でよかったよ。一人じゃとてもいけないよ」
「ぼくもだよ。何か起こったときは助け合おう、約束だ」
「もちろん。いっしょに戦えばより強いからね!」
こうして二人の旅人は森に入っていきました。木が生い茂って暗い森でした。
できるだけ早く森を抜けてしまおうと、二人は急いで歩きました。しばらく二人は危険な動物を見ることも、鳴き声を聞くこともなく歩いていました。
突然、大きな足音がしました。
小さい男はおびえて言いました。
「待ってくれ、今何か聞こえただろう?」
「うん、聞こえた。大きな動物みたいだった。なんだと思う?」
「知らないよ。知りたくもない。もっと速く歩いてここから出よう!」
二人の旅人はますます速く歩きました。それでもまだ足音と、木の枝を折るような音が聞こえました。
「こわいよ!」
「ぼくもだ。でも、どんな動物とも一緒に戦うって約束しただろう?」
「そうだね…」
まさにそのとき、木の間から何かが飛び出してきました。それは大きな茶色い熊でした。熊は二人を見て、近づいてきました。旅人は顔を見合わせました。そして、小さい旅人は駆け出しました。
「おい、何してる?おいて行かないでくれよ!」
「死にたくないよー!」
小さい男は大きな木を見つけ、登り始めました。大きな男だけがひとり、道に残されました。
「信じられない、ぼくを見捨てるなんて。ぼくは木に登れないんだ!」
大きな熊はますます近づいてきました。大きな男は走って逃げる間もなかったので、地面に横になり、じっとしていました。息を殺して、こう考えました。
「どうか、ぼくが死んでいると思ってくれ…」
熊はゆっくり大きな男のまわりを歩いてにおいをかぎました。熊は男の耳元で何か言い、しばらくすると去っていきました。
熊がいなくなったので、小さな男は木から降りてきて言いました。
「ああ、よかった、きみが無事で。熊がきみを食べるのかと思ったよ。ところで、熊はきみに何か言わなかったかい?なんだって?」
「熊はこう言ったのさ。『困った仲間を見捨てるような人間と旅をするのは賢明じゃない』って。だから、さよなら!」
困ったことが起きたときに見捨てるような友は信用するな。
こういう人とはさよならして、スッキリ生きていきましょう!