エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
オリジナル・ショート・ストーリー
『お茶漬け』
夫「ただいま」
妻「長い一日だったわね。疲れたでしょう?」
夫「クタクタだよ。お得意さんが会食の後、歌いたいって言うからさ。カラオケに連れて行ったんだよ。そしたらずっと歌いっぱなしで、こっちは拍手し続けたよ。終電逃すところだった」
妻「たいへんだったわねー。でも、お得意さんはごきげんだったでしょうね」
夫「そうだといいんだけど。ああ、腹ペコだよ。何か食べるものある?」
妻「カラオケの前に会食に行ったんでしょ?」
夫「お得意さんの接待の席なんて、たいして食べられないものだよ」
妻「わかったわ。でも今日は何もないわ」
夫「何にもないの?インスタントラーメンは?」
妻「あなたが週末に食べちゃったでしょ。冷蔵庫に朝の残りのごはんがあるけど…。お茶漬けでいい?」
夫「お茶漬け?うーん…」
妻「好きじゃないの?」
夫「好きだけどさ、きみは京都の出身だから、出て行けってことなのかな?」
妻「何言ってるの?」
夫「京都では、お茶漬けを出すってことは、帰ってくれってことなんだろ?やっと帰って来たんだから、帰ってくれはないだろう?」
妻「まあ、あなた、お茶漬けの話、よくわかってないわね」
夫「どういうこと?」
妻「教えてあげるわ。ある日、男の人が散歩をしていたの。友人の家の近くを通りかかったので、立ち寄ってあいさつしたのよ」
夫「ほう、それで?」
妻「家の外でしばらく立ち話をしていたんだけど、男の人がずっとしゃべりっぱなしで…」
夫「友人は気の毒だな」
妻「で、友人は男の人に言ったの。上がっていきませんか?って」
夫「友人がなんでそう言ったかわかるよ。もう帰る時間だってわかってほしかったんだね」
妻「その通り。友人は礼儀をわきまえていたのよ。でも男の人はそれがわからなくて。本当に友人の家に上がっちゃったの」
夫「やれやれ」
妻「家に上がってからも、男の人はずっとしゃべってて。だからついに友人はこう言ったの。『今日はお茶漬けくらいしかないんですけど、召し上がりますか?』って」
夫「なるほど。友人は丁寧に『もうお帰りください』って言ったんだね。男の人はわかってくれたのかな?」
妻「そう、やっと失礼だったとわかって帰って行ったわ。だからみんなお茶漬けを出すってことは、その人に出て行ってほしいってことだと思ってるわけ」
夫「で、ぼくに出て行ってほしいと?」
妻「まさか。わかってないわね。長居する人だけのことよ。あなたまだ帰ってきたばかりでしょ。だから出て行けなんて言ってないわ」
夫「じゃあ、喜んでお茶漬けをいただくよ」
ん?「あなたまだ帰ってきたばかりでしょ。だから出て行けなんて言ってないわ」ってことは、帰って来てしばらくたっていたらどうなるの?
(原文はこうです↓)
You just got home, so I'm not telling you to leave.