エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
オリジナル・ショート・ストーリー
『私の顔』
真理(4月の寒い日。私はファッション・デザイナーを目指す学生。クラスメイトを見かけたので、声をかけた)
真理「おはよう!」
友だち「おは…よう…。あれ?知り合いかしら?」
真理「私よ。真理!」
友だち「真理?いつもとちがうわね。マスクしてニット帽かぶってるから。眼鏡だって見えないし」
真理「うーん、今日すごく寒いわね」
友だち「誰にもわからないわよ!顔が見えないと」
真理「どうでもいいのよ」
友だち「そうなの?」
真理「誰も顔なんて気にしないわよ。私は有名なファッション・デザイナーになりたいだけ。世界中の人が私のデザインを知ってくれたら、私の顔なんて知る必要もないわ」
友だち「でも、もし他の人がマスクをつけて帽子をかぶって眼鏡をかけて、私は有名なファッション・デザイナーですって言ったら?」
真理「うーん」
友だち「デザイナーの顔は大切よ、真理。顔があなたなんだから」
真理(友だちの言葉を聞いて、父を思い出した。父は数年前に他界した)
父「どうした、真理?なんで泣いているんだ?」
真理「お父さん、私がお誕生日にあげた帽子、ちっともかぶってくれない」
父「ときどき被っているよ、とても気に入っているんだ」
真理「うそ。好きじゃないんでしょ。家の周りでしか被ってないもん」
父「そりゃそうだけど。でも、プレゼントはとても気に入っていよ」
真理「じゃあどうしてもっと被らないの?」
父「真理、お父さんの顔を見てごらん。ひげがあるだろ?」
真理「うん」
父「ひげが顔を隠しているんだ。だからみんな、お父さんのことをこの髪型で覚えているんだ。帽子を被ると髪が見えなくなってしまう。だから帽子を被っていると、みんなお父さんだってわからないんだよ」
真理「えーっ。じゃあ、ひげを剃ればいいじゃん」
父「ハハハ、このひげは真理が赤ん坊のころから生やしているからねぇ。ひげがないとみんなに誰かわかってもらえないよ」
真理「じゃあ、私の帽子被れないってこと?」
父「うーん。そうだ!真理がお父さんと並んで歩けばいいんだ」
真理「は?」
父「お父さんの横に真理がいれば、父さんの友達はすぐにわかる、帽子を被っていても」
真理「どうして?」
父「真理は父さんにそっくりだからさ」
真理「お父さん!私、ひげ生やしてないよ!」
父「顔にひげを描いてあげよう」
真理「やだ!」
真理(その通り。私の顔は父にそっくり。十代のころはそのことがいやだった。顔を変えようと、濃いメイクをしたり、髪型をいろいろ試してみた。でも、今はあまり気にならない。これが私だもの。次の日、また友だちに会った。)
真理「おはよう」
友だち「おはよう。あら、真理。真理なの?」
真理「そう、私よ。これが私の顔」
友だち「わかるわよ。眼鏡はどうしたの?あと、マスクと帽子は?」
真理「コンタクトレンズにしたの。それにマスクと帽子はやめたわ」
友だち「とてもいいわよ」
真理「ありがとう。この方が、みんな私の顔を覚えてくれる。だから、誰も私のデザインを盗むことはできないわ」
友だち「その通り」
真理「でも、まずは、すっごく素敵なデザインをしないとね」
髪型で覚えている人…。たとえば、ロッチ中岡さん⁉ 髪型変えて眼鏡はずしちゃえばわからないなー、きっと。