こぶとりじいさん
昔々あるところに、右の頬に大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。おじいさんはこぶが好きではありませんでしたが、こぶを取ることはできませんでした。
ある日、おじいさんは山へたきぎを拾いに出かけました。おじいさんは山奥へと入って行き、たきぎを集めていました。すると突然、雨が降り出しました。
雨は一晩中続くだろうと思ったおじいさんは、大きなほらのあいた気を見つけました。おじいさんは中へ入ると、そのまま眠ってしまいました。
おじいさんは、にぎやかな音と音楽で目が覚めました。木の近くで、20人ほどの鬼が食べたり飲んだりしていたのでした。初めのうち、おじいさんはこわくて仕方がありませんでした。鬼に食べられてはたまりません。
やがて鬼たちは踊り始めました。とても楽しそうです。
おじいさんも踊りは大好きでした。少しづつ音楽につられて、おじいさんは木の中から出て行きました。なんと、おじいさんは鬼たちと一緒に踊っているではありませんか!
「ホイホイ!エッサカ、ヨイショット!」
おじいさんは踊りがとても上手でした。鬼たちはよろこんでおじいさんの踊りを見ていました。
「おい、じいさん! もっと踊れや!」
おじいさんは踊り続けました。
突然、朝日が昇りました。鬼たちは帰らなければなりません。鬼の大将が言いました。
「おい、じいさん。明日もきっと来るんだぞ! なにか大事なものを預かっておく。また来たら返してやろう」
おじいさんは無意識のうちに右の頬にあるこぶを触っていました。鬼の大将は叫びました。
「そうか。じいさん、そのこぶが大事なんだな! 預かっておくぞ!」
鬼はおじいさんのこぶを引っぱりました。ポンッと音を立てて、こぶは取れました。おじいさんは頬を触ってびっくりしました。大きなこぶがなくなっていたのです!
おじいさんは踊りながら村へ帰っていきました。
おじいさんの家の隣には、左の頬に大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。このおじいさんは隣のおじいさんのこぶがなくなっているのを見ました。そして話を聞き、自分も山へ出かけて行きました。
おじいさんは、前の晩のおじいさんと同じように木の中で待っていました。すると鬼がやってきました。鬼たちは食べたり飲んだりしていました。鬼の大将が叫びました。
「誰かが俺たちを見ているぞ。昨日のじいさんにちがいない。出てこいや!」
おじいさんは怖くなりました。それでも鬼のいるところへ出て行きました。
このおじいさんは踊りがぜんぜんできません。踊ろうとしましたが、上手に踊ることができません。鬼たちはおもしろくありませんでした。
「そんなのは踊りじゃないぞ!」
鬼が言いました。
「こぶを返すから、もう帰れ!」
鬼はこぶをおじいさんの右の頬に投げつけました。おじいさんは泣きながら家に帰りました。
今では、おじいさんの左の頬にも、右の頬にもこぶがついています。
そんなぁ~。
せめて「意地悪じいさん」という設定だったらよかったのに…。
うばっ皮
昔々あるところに、美しい娘がおりました。
ある日母親は病気になり、亡くなってしまいました。父親はすぐに再婚しました。新しい母親は、美しい娘のことが気に入らなかったので、娘を家から追い出してしまいました。
「帰って来るんじゃないよ!」
娘はどうしていいかわからず、歩き始めました。しばらくすると日が暮れてしまいました。山の中の灯りを見つけると、そちらへ歩いていきました。
そこはおばあさんの住む小さな家でした。娘は言いました。
「どうか一晩泊めてください」
おばあさんは快く迎え入れ、おいしい食事を出してくれました。
翌朝おばあさんは言いました。
「この山には悪い者どもがおる。このうばっ皮(姥っ皮=おばあさんの皮肌)を被って行きなさい。おばあさんにしか見えないから。そうすれば悪者に襲われることはないだろう。山を下ると長者の屋敷がある。そこの者に働かせてもらうよう頼みなさい」
娘はうばっ皮をかぶると、すぐにおばあさんになりました。娘は山を下りて行きました。悪者たちは娘を見つけましたが、こう言いました。
「貧しそうなばあさんだ。金目のものは持っていなさそうだ」
娘は無事に長者の屋敷に着きました。そこで娘は言いました。
「なんでもしますから、働かせてください」
使用人は答えました。
「では、おばあさん、台所で働いてもらうよ」
ある日、長者の息子が夜遅くに帰ってきました。息子はおばあさんの部屋の明かりを見て言いました。
「なんで起きているんだろう?」
息子は戸のすきまから中をのぞいて驚きました。若い美しい娘が本を読んでいたのです。息子は一目見るなり、娘のことが好きになりました。
それからというもの、長者の息子は娘のことが忘れられなくなりました。飲まず食わずで、眠ることもできません。体が弱っていきました。
医者から薬をもらいましたが、どれも効きません。ついに家族は占い師に助けを求めました。
占い師は言いました。
「どうやら、息子さんはこの屋敷で働く者の誰かに恋をしているようだ」
そこで長者は女性たち全員に、息子にお茶を持ってくるように命じました。息子がその一つを飲めば、そのお茶を持ってきた女性を妻にするというのです。
女性たちはみんなめかしこんで息子にお茶を出しました。しかし、息子はどれも飲もうとはしませんでした。
残った女性は台所で働くおばあさんだけでした。
「お前の番だ」
おばあさんは言いました。
「少々お待ちください」
おばあさんは自分の部屋へ行き、うばっ皮をはずして元の若い美しい娘になりました。
お茶を持って行くと、息子は微笑んで言いました。
「ありがとう。お茶をいただきます」
二人は結婚して、末永く幸せに暮らしました。
美しい娘、いじわるな継母、みすぼらしい身なりで働く→王子様が現れる。日本版シンデレラでした!
たにし長者(前編)
昔々小さな村に、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。
二人は田んぼでよく働き、幸せに暮らしていました。しかし、二人が心から望んでいたものがありました。この老夫婦は子どもがほしかったのです。
毎日、仕事の前に田んぼの神様にお祈りしました。
「どうか子どもが授かりますように。どんな子どもでもかまいません。人間の子どもでなくてもかまいません。たにしの子どもでもかまいません」
ある日、おじいさんが田んぼで仕事をしていると、声が聞こえてきました。
「お父さん、お父さん!」
おじいさんが振り返ると、そこには一匹のたにしがいました。
「私を息子にしてください」
おじいさんはびっくりしました。
「これは田んぼの神様の子どもにちがいない!」
おじいさんはたにしを家に連れて帰りました。
おじいさんとおばあさんはお椀に水を入れて、たにしが住めるようにしました。
二人はそのお椀を家の中で一番いい場所に置きました。そこは祭壇の前でした。
二人は心を込めて新しい息子の世話をしました。たにしはたくさん食べました。体は小さかったものの、強いたにしになりました。
数年がたちました。おじいさんとおばあさんはたいそう年を取りました。ある日、おじいさんは長者の家に行かなくてはなりませんでした。毎年田んぼで採れたお米を届けるためです。
しかし、この年はお米を運んで行くのがむずかしそうでした。おじいさんは年を取ってうまく馬に乗れないのです。そこでたにしは言いました。
「私の世話をしてくれてありがとうございます。お二人はすばらしい両親です。今日からは、私が毎年長者の家にお米を持って行きましょう。私を馬の背に乗せてください」
おじいさんとおばあさんはたにしを馬の背に乗せました。たにしは上手に馬を操って、すぐに長者の家に着きました。
おじいさんとおばあさんはよく息子の話をしていたので、長者はたにしのことを知っていました。
「やっと会えましたな。どうぞ食事をしていきなされ」
長者とたにしの会話は長いこと続きました。
長者はおどろきました。たにしがあまりにも賢く、おもしろいので! 長者はたにしのことがたいそう気に入りました。そこで、自分の娘の一人と結婚してほしいとたのみました。
長者はまず長女に、たにしの妻にならないかと尋ねました。長女はいやだと言いました。次に末の娘に尋ねました。末の娘は言いました。
「お父様、私はその方と結婚します」
たにしの家で、おじいさんとおばあさんはこの知らせを聞いてびっくりしました。結婚の日、長者の美しい娘はたくさんの婚礼の品を持って嫁いできました。たにしとおじいさん、おばあさんはとても幸せでした。
来週、たにしはどうなるの?
たにし長者(後編)
老夫婦には子どもがいませんでした。二人はいつも田んぼの神様に子宝祈願をしていました。
ある日、一匹のたにしがおじいさんに話しかけてきました。おじいさんの息子になりたいと言うのです。おじいさんは、たにしを田んぼの神様からの贈りものだと思って、自分の子どもにしました。
たにしは立派な息子として、老夫婦の仕事を手伝いました。ある日、たにしがお米を長者の家に届けると、長者はたにしのことがたいそう気に入りました。そして末の娘はたにしのもとへお嫁に行きました。
たにしと長者の娘はとても幸せでした。いつも笑い声が絶えず、楽しく暮らしていました。二人は老夫婦の世話もしました。みんなとても幸せに暮らしていました。
ある日、妻は田んぼの神様にお参りするため、神社に行くことにしました。鳥居のところでたにしは言いました。
「一人でお参りしておいで。私は待っているから。私を田んぼの中に置いておくれ」
若い妻はとても心配でした。たにしを置いて行きたくはありませんでした。
それでも夫の言う通りにしました。若い妻は、たにしを田んぼの中におろしました。そして妻は神社にお参りに行きました。
お参りを終えて、妻は田んぼに戻りました。夫はどこにいるのでしょう。
「ああ、なんいうこと! 田んぼはたにしでいっぱいだわ」
若い妻はたにしを一つずつ確かめました。でも夫を見つけることができません。
ますます心配になってきました。若い妻は田んぼじゅうを歩き回りました。何度も何度も転んでしまいました。妻は泣きながら夫を探しましたが、見つかりません。
きれいなゆかたが汚れてしまいました。でもそんなことはどうでもよかったのです。妻は夫のことだけを考えていました。
「あなた、どこにいるの? あなたがいないと、私は生きていけません」
そのとき、後ろの方で声がしました。
「愛しい妻よ、私はここにいます」
それは夫の声でした!
妻が振り返ると、そこには立派な若者が立っていました。
「私ですよ。たにしです。あなたの愛のおかげで、人間になることができました」
若い妻はたいそう喜びました。二人は神社に行って、田んぼの神様に何度も何度もお礼を言いました。
二人が家に帰ると、老夫婦はびっくりして、大喜びしました。その知らせが長者の耳に入ると、長者も大喜びしました。
数年が過ぎました。長者は亡くなるとき、田んぼを全部、この若い夫婦にあげました。二人は一生懸命に働き、ますます豊かになりました。やがて人々から、たにし長者と呼ばれるようになりました。
めでたし、めでたし。長者どん、よくぞ末の娘をたにしに嫁がせました!