バトンタッチ(Dance Moves)
夫:ただいま! あれ、何やってるの?
妻:ビデオ・カメラをセットしてるの。
夫:なんで?
妻:幼稚園の父母たちで出し物をやるのよ。卒園式に、ね。
夫:父母がお芝居をするの?
妻:ううん。お芝居は去年やったわ。
夫:じゃ、今年は何をやるの?
妻:ダンスよ! 私が振り付けを担当するの。
夫:きみが? ハハハ、本当に?
妻:ちょっと、笑わないでよ!
夫:大学でダンス部に入っていたとはいえ、もう10年以上も踊ってないだろう?
妻:他のみんなはダンス未経験者なのよ。私が踊るところを録画して、みんなに見てもらうの。それで振り付けを覚えてもらうのよ。
夫:そりゃ大変そうだね。
妻:協力してね。大学のダンス部で一緒だったんだから。私の動きをチェックして。
夫:夕飯を食べたいんだけど。できてる?
妻:まだよ。録画が終わったら作るわ。
夫:えっ!?
妻:私が音楽をかけるから、カメラの録画ボタンを押してくれる?(音楽スタート)さあ、リズムに合わせて踊りましょう!
まず、輪になって。1,2,3,4…手をたたいて、右に、次は左に。クルッと回って、ジャンプ! さあ、ちょっと難しくなりますよ。高く足を上げて…
(転倒)痛い!
夫:(音楽を止める)大丈夫? 立てる?
妻:ダメ、腰が痛い。ちょっと休むわ。
夫:あのさ、振り付けが難しすぎるんじゃない?
妻:そう?
夫:ダンス経験者の君が転ぶくらいだから、ほかの人にはもっと難しいんじゃない?
妻:うーん、そうかもね。どうすればいいかしら?
夫:転ぶ直前にやろうとした、あの足を上げるところをやめたら? こういうふうに腰を動かせばいいんじゃない?
妻:それじゃ簡単すぎない?
夫:同時に手と腰を動かせばいいよ。こんなふうに。
妻:いいわねー。最初からやってもらえる?
夫:なんで?
妻:録画するから。
夫:録画?
妻:腰が痛くて動けないのよ。あなたのダンスを録画して、みんなに見てもらうの。
夫:そんな、はずかしいよ。みんなに笑われるよ!
妻:そんなことないわ。私より上手だもの。みんなカッコいいって思うわよ。
夫:よし、わかった…。(音楽スタート)はい、1、2、腰を振って…。さあクルッと回って…
妻:最高よ! すばらしい振り付けだわ! それに、とってもわかりやすい!
夫:ああ、汗びっしょりだ。シャワーを浴びてくる。そしたら夕飯できてるかな?
妻:えっと…、無理だわ。
夫:えっ? 何で?
妻:腰が痛くて、動けないの。今夜はあなたが作ってくれない?
お疲れ様です~!
英語も身体も、日ごろから鍛えておかないといけないようです。
オーディションの行方(The Audition)
AD:はい、お疲れ様でした。結果は2,3日後にお知らせしますね。ナオヤさん、彼女はどうでした?
ナオヤ:主役のイメージには合わなかったな。
A:わかりました。次の人を呼びます。
ナレ(ナオヤ)
映画監督になって25年。今日は次の映画の主役を選ぶオーディション。正直なところ、ぴったりな役者を見つけるのはむずかしい。この役は私の初恋のヨシコさんなんだから。ああ、ヨシコさん、あなたの元気な声を忘れたことはないよ。
マチコ:こんにちは。中村マチコ、18才です!
A:はいはい、そんな大きな声を出さなくても聞こえますよ。
ナ:まあ、いいさ。出身は?
マ:札幌です。
ナ:そうなの? 私もだよ。
マ:はい、知ってます。母が言ってました。監督とは高校のとき同じクラスだったと。
ナ:お母さんが? どなたかな?
マ:私、白石ヨシコの娘です。
ナ:ヨシコさんのお嬢さん?
A:ナオヤさん!大丈夫ですか?
ナ:えーっと、そうだ。その…お母さんはどうしてる?
A:(小声で)ナオヤさん、個人的なこと聞いちゃだめですよ。
ナ:(小声で)そうは言っても、知りたいんだよ。
マ:母は元気で、いつもみんなに言っています。監督のこと知ってるのよって。
ナレ(ナオヤ)
ヨシコさんが私のことを?
A:マチコさん、お母さんが監督の知り合いだからといって、役をもらえるわけではありませんよ。ね、ナオヤさん?
ナ:そりゃそうです。では、台本の8ページを開いて。ヨシコさんの、いや、ヨシエさんのセリフを言ってみて。
マ:はい。
ナ:はい、スタート!
マ:ナオキ、待って!どうして言ってくれないの?私が何をしたの?
ナ:カーット!(小声で)彼女、いいんじゃない?
A:(小声で)本気ですか?
ナ:マチコさん、私の映画の主役をやってもらいたい。
マ:本当ですか? すごくうれしいです!
ナ:なにか質問はあるかな?
マ:はい、あります。このストーリーは母のことですよね?
ナレ(ナオヤ)
なんと、彼女は知っているのか!
ナ:その、君はどうしてそう思うのかな?
マ:映画の舞台は札幌ですし、役のヨシエという名前は、母の名前のヨシコに似ているので。
ナ:同じような名前の女性は札幌にたくさんいるだろうよ。
マ:でも映画にはナオキという名前の人が出ていて、監督もナオヤですし。これ、実話なんですか?
ナ:うーん、気が変わったよ。君は映画に出なくていい。
マ:えっ、わかりました。ありがとうございました。失礼します。
ナ:待ちなさい!そんなに悲しそうな顔をしないで。また気が変わったよ。君に主役をやってもらう。
ア:ええっ、ナオヤさん。本気ですか?
ナ:ちょっと待てよ、ヨシコさんが私の初恋の相手だと知ったら…
マ:母が初恋の相手なんですか?
ナ:そうなんだよ…
マ:父には言わないでくださいね。母も言ってました。監督が母の初恋の相手だったって!
あらら…
大人の味(My Brother's Cooking)
アヤ:あー、疲れたー。お兄ちゃんのアパートってなんでこんなに駅から遠いの?
マサト:安いからだよ。お前の新しいところは狭くて高いよな。
ア:でも、駅に近いよ。その方がちょっと長く寝ていられる。
マ:(ため息)ガキみたいだな。
ア:やめてよ!
ナレ(アヤ)
就職して東京に引っ越すことになった。兄のマサトがアパート探しを手伝ってくれて、やっと駅に近いところが見つかった。来週引っ越す予定。
マ:とにかく、いい部屋が見つかってよかったな。
ア:まあね。そうだ、お祝いしない? お寿司ごちそうしてよ。
マ:いやだよ! 寿司なんて高すぎる。何か作ろうか?
ア:料理するの?
マ:もちろん、するさ! 外食は高いからね。節約のために自炊してるんだ。
ア:感動した!もうすっかり大人だねー!
マ:ま、一人暮らしも2,3年になるからね。えーっと、何があるかな…
ア:あ、スパゲティがあるわ。ミートソースもある。ミートソース・スパゲティならできるでしょ?
マ:いいや、それじゃ簡単すぎる。オリーブオイルとニンニクと唐辛子で何か作ろう。
ア:唐辛子? 私、辛いの食べられない。
マ:だいじょうぶ、そんなに辛くしないから。まず、スパゲティをゆでる。大きななべに水をたっぷり入れて。沸騰したら、塩を加えて、スパゲティを入れる。
ア:オーケー。
マ:約7分間ゆでる。スパゲティをゆでている間に、ニンニクを準備する。こんなふうにつぶして。
ア:なんでつぶすの?
マ:刻むより、つぶした方が味が引き立つんだ。
ア:うわー、よく知ってるのね!
マ:ニンニクが準備できたら、フライパンにオリーブオイルを入れる。それから、ニンニクを入れる。
ア:待って。火をつけるのを忘れた。
マ:火をつけるのはニンニクを入れてからだよ。その方が、ニンニクの香りがオイルに移りやすいんだ。ニンニクの香りがしてきたら、唐辛子を入れる。最初にたねを取り出すのを忘れないで。
ア:あー、いいにおい!
マ:ああ、このにおい、最高だよな。オーケー、スパゲティがゆであがった。フライパンに移そう。忘れずになべのお湯を少し加える。仕上げに塩、コショウを少々かけて。はい、できあがり! ジャーン! スパゲティ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノの完成です!
ア:うわー、プロみたい!
マ:しゃべってないで、食べてみて。
ア:わかった。いただきまーす! うーん、すっごく美味しい! ニンニクとオイルがよく合って、辛すぎないわ。お兄ちゃんの料理、最高よ。
マ:口に合ってよかったな。それにむずかしくないだろ。
ア:そうね。東京に引っ越したら、私…
マ:毎日料理するって?
ア:ううん。ここに食べに来るわ!
マ:何だって⁉
料理の得意な兄なんて、いいですねー!
地元の友達(A Friend of Mine)
タケシ:ねえ、メグミ、夏の合宿はどこに行くの?
メグミ:まだ考えてるところ…。ホテルが高すぎるのよ。
タ:おれの友だちが他の大学でテニス部のキャプテンやってるから、どこがおすすめか聞いてみようか。
ナレ(メグミ)
「おれの友だち」か…。タケシは何度その「友だち」の話をするんだろう?
タ:そいつ、すっごくテニスが上手いんだ。インターハイで3位になったんだよ。
ナレ(メグミ)
タケシと私は大学で同じテニス部に所属している。私が部長で、タケシは副部長。タケシはいつも「友だち」の話ばかりしている。
タ:その友だち、けっこう有名な選手に勝ったこともあるんだ。
メ:へえー。でもそんなに上手いのに、なんで大学のテニス部に入ってるの? なんでプロにならないの?
タ:えーっと、実は膝をケガしたんだ。
メ:あら、そうなの。で、名前は?
タ:えーっと、言ってもわからない思うよ。
メ:でもインターハイで3位になったんでしょ?
タ:4位か5位だったかな…よく覚えてないや。
ナレ(メグミ)
いつもこんな感じで会話は終了。タケシは決して「おれの友だち」が誰か言わない。
タ:ねえ、ホテルじゃなくてテントに泊まるのはどうかな。
メ:キャンプでテニス合宿?
タ:そう。キャンプファイヤーやったり、食事も作ったりして。
メ:それ、おもしろそう!
タ:おれの友だちがアウトドア派で…
ナレ(メグミ)
また出た!
タ:ナイフ一本だけで、山の中で1ヶ月も暮らしたんだ! けっこう有名で、雑誌の表紙に載ったこともあるんだ。
メ:本当? なんていう人?
タ:あー、言ってもわからないと思うよ。その雑誌は本格的なアウトドア派向けだから。
メ:(ため息)
タ:信じてないの? 本当だよ!
メ:信じてるわよ。とにかく、キャンプはいいわ。カレーが作れる。
タ:カレーと言えばさ、おれの友だちがカレー屋をやっててさ、有名なガイドブックに載ったんだよ。
ナレ(メグミ)
今度はカレー屋さん? タケシには有名な友だちが何人いるんだろう?
タ:そいつのカレーは超うまいんだよ。
メ:で、その人の名前は?
タ:その人はそんなに有名じゃないんだ…
メ:その人のカレー屋さんは、有名なガイドブックに載ったんでしょ? なんで名前を言えないの?
タ:あの、その…その人の名前は…
メ:名前は?
タ:…タケシ。
メ:タケシ? タケシなの? 自分のこと言ってるの?
タ:そう…。カレー屋じゃないけど、カレーを作るのは得意なんだ。それに、キャンプには何回も行ってるから、テントを建てるのも得意だよ。
メ:なんでそう言わなかったの?
タ:なんとなく、自分のこと言うのは恥ずかしくて…。とにかく何か手伝いたいんだ。どうすればいい?
メ:そうね、キャンプに行くなら、大きなワゴン車がいるわね。見つけてくれる?
タ:もちろん。おれの友だちが…てか、おれなんだけど、運転は得意なんだ。おれが運転するよ!
ナレ(メグミ)
ほう。タケシは思っていたより才能があるかも。それに、ちょっとかわいいわ!
えーっ!! そうですかぁ!?