エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
広島
広島
ベン「みなさま、ありがとうございました」
アキト「ぼくたちのショー、お楽しみいただけましたでしょうか。A&Bでした!」
ナレ(ベン)
ぼくはベン。今日、アキトとぼくは広島にいる。ここは観光客がいっぱいだ。
べ「アキト、次どこ行く? 宮島に行ってみようか。世界遺産だよね」
ア「ああ…」
べ「それとも野球を見に行く? ここのチームはすごく人気があるって聞いたよ」
ア「実は、行きたいところがあるんだ」
べ「それ、どこ?」
ア「うーん、近くなんだ」
ナレ(ベン)
アキトは真面目な顔をしていた。歩き始めたので、ぼくもついて行った。すぐに小さな石碑があるところに着いた。
べ「これは何?」
ア「原爆で死傷した人たちの記念碑なんだ」
べ「平和公園にあるアーチが記念碑だと思ってたよ」
ア「広島市には、ほかにも記念碑がたくさんあるんだ。これはぼくのおばあちゃんが行っていた女学校の石碑なんだ」
べ「アキトのおばあさん?」
ア「あれ、言わなかったっけ? 広島出身なんだ」
べ「そうなの? 知らなかった!」
ア「子どものころ、毎年8月6日におばあちゃんとここへ来ていたよ。おばあちゃんの学校の700人近くの生徒が亡くなったって記してある。他のどの学校より多かったんだ」
べ「そんな悲しいことが…」
ナレ(ベン)
その石碑には、三人の少女の姿が刻まれていた。
べ「真ん中の少女は箱を持っているね。箱にE=MC²って書いてあるけど。なんで?」
ア「E=MC²は原子力エネルギーを製造するのに使われた化学式なんだ。その化学式はアインシュタインの相対性理論から来ている。毎年おばあちゃんはこの石碑の前でお祈りしてた。いつも泣いていたよ」
べ「今でも広島で暮らしているの?」
ア「5年前に亡くなったんだ」
べ「それは、残念だったね」
ア「大道芸人になろうって考えていたとき、おばあちゃんだけが夢を追いなさいって言ってくれた。他のみんなは、会社に入って働けって。おばあちゃんは言っていたよ。『アキト、みんなを笑顔にできたら、世界はもっと平和になる』って。ま、そんなに簡単なことじゃないけどね。でも、苦しいときはいつもおばあちゃんの言葉を思い出すんだ」
べ「アキト、なんでもっと前に話してくれなかったの? 8月6日に来れたじゃないか」
ア「日にちはそんなに重要じゃないんだ」
べ「どういうこと?」
ア「8月6日は恐ろしい日だった。でも、そのことを他の日にも考えなくちゃいけないんだ。おばあちゃんがそう言ってた」
べ「そうか、わかった。おばあちゃんのお墓参りにも行く?」
ア「明日行こうと思ってる」
べ「一緒に行ってもいいかな?」
ア「いいけど、そんなおもしろいものじゃないよ」
べ「それはいいよ。お祈りして、ごあいさつするんだ」
ア「ありがとう」
べ「おっと、暗くなってきた。今夜泊まるところを探さないと」
ア「今夜はうちに泊まろうか」
べ「それはいいね! じゃあ、ご両親に電話しないと。そうすればごちそうを用意してくれるかもよ」
ア「大丈夫だよ、ベン。もう電話したから」
いつも今日一日の無事をおじいちゃんに報告してから寝ます。会うことのできなかった、シベリアで戦死したおじいちゃん。34才でした。