エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
『木登り』日本語訳
木登り(Tree Climbing)
ゆういち「ああ、緊張した」
ちなみ「もう終わったわよ」
ゆ「でさぁ、ちなみ、おれ、うまくできたかな?」
ち「どういうこと?」
ゆ「ご両親に気に入ってもらえたかな?」
ち「うちの両親は幼稚園のころからゆういちのこと知ってるのよ。気に入ってるに決まってるじゃないの。今日気が変わったとは思えないわ」
ゆ「あのさ、このことは別なんだよ。緊張したなぁ」
ち「ありがとね」
ゆ「何が?」
ち「うちの両親に結婚していいか聞いてくれて」
ゆ「大切なことだよ。確かに、ご両親はおれのこと子どものころから知っているけど、信頼できる人間として見てほしかったんだ」
ち「私たち、本当に結婚するのね…」
ゆ「は?」
ち「ごめん。実感が湧かなくて」
ゆ「そうだな。同じこと思ってたよ。子どものころさ、この丘を越えて学校に行ってたんだよな。あの頃は、結婚なんて思いもしなかった。野球のことで頭がいっぱいだった」
ち「あのね、私はね、いつかゆういちのお嫁さんになりたいってひそかに思ってた」
ゆ「そうなの?」
ち「そうよ。ねえ、向こうに木が見える?」
ゆ「うん。何か特別な木なの?」
ち「よくあの木に登ったの。あの木からゆういちの家が見えたのよ。木に登っていつもゆういちの家を見て、ゆういちが見えるかなって思ってた。ねえ、今登ってみない?」
ゆ「今? 新しい靴を履いているんだけど。それにこんなスーツじゃ登れないよ」
ち「大丈夫よ。(木に登る)ああ、木登りってたいへん。子どものころは簡単だったのに」
ゆ「ほら、手をとって」
ち「ありがとう。あー、遠くまで見渡せるわね。あらっ?」
ゆ「どうした?」
ち「ゆういちの家が見えない」
ゆ「ああ、新しいビルが建っちゃったからね。子どものころとずいぶん景色が変わっちゃったな」
ち「でも、信じて。ここからゆういちの家が見えたのよ」
ゆ「もちろん信じるよ。それに…あの、ちなみを見たんだよ」
ち「私を見た?」
ゆ「ああ。ちなみが木登りしているのを2~3回見たことある」
ち「本当?冗談でしょ?」
ゆ「本当だよ。友だちの太郎が近くに住んでて、よく向こうの方で遊んでいたんだ」
ち「知らなかった。なんで声をかけてくれなかったの?」
ゆ「小学生だったから、そんなことできないよ」
ち「ははあ。恥ずかしかったのね、私がかわいくて人気者だから」
ゆ「ちなみが? かわいい? サルみたいに木登りしてたのに」
ち「ちょっと!それはないんじゃない? 正直に言いなさい。私のことが好きで声をかけられなかったと」
ゆ「押すなよ。落ちちゃうよ。あああー! いてーっ!」
ち「ゆういち! 大丈夫? ごめんなさい。立てる?」
ゆ「大丈夫だよ。しりもちをついただけさ」
ち「本当にごめんなさい。押すつもりはなかったのよ。ちょっとふざけただけ」
ゆ「よし、わかった、本当のことを言うよ」
ち「本当のこと?」
ゆ「子どものころから、おれもこっそり思ってたんだ。ちなみと結婚したいって!」
キャーキャー!!
勝手にやって。
もー知らん。