エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
『初夢長者』前編
初夢長者 前編
昔々、山あいの村に年老いた父親とその家族が住んでいました。
ある新年の朝、父親は3人の息子に初夢について尋ねました。
初夢とは、新年の一番初めに見る夢のことです。よい初夢を見ると、よい一年が過ごせると言われています。また、初夢は現実になると言う人もいます。でも、初夢を人に話すと現実にはならないとも考えられています。
長男と次男は父親に初夢を話しました。しかし、末の息子は初夢の話をしたくありませんでした。ただ、
「よい夢を見ました」
とだけ言いました。父親は
「どんな夢だったのか? 話してみなさい」
と尋ねましたが、末の息子は話そうとしませんでした。
父親はたいそう腹を立て、末の息子を家から追い出してしまいました。
「帰って来るな!」
末の息子は帰る家がなくなってしまいました。悲しくなって山道を歩きました。どこにも行くところがないのです。そのとき、空から天狗が舞い降りてきて言いました。
「おい、どうしてそんなに悲しい顔をしておる?」
「とてもよい初夢を見たのです。でも父にその話をしなかったので、父は私を家から追い出したのです」
「そうであったか。気の毒に。で、その夢とは?」
「申し訳ないけれど、天狗さんにも夢のことは言えません。でも、とてもよい夢でした」
「話してみなさい。この蓑と傘をあげよう。これがあれば、遠くにひと飛びで行けるのじゃ。さあ、夢の話をしてみよ」
「わかりました。でも、それで本当に飛べるのですか?」
「もちろんじゃ!」
天狗は蓑を末の息子の肩にかけ、傘を頭に載せました。
「私を遠くへ飛ばしておくれ!」
末の息子は大きな声で言いました。
すると突然、天狗に夢の話もしないまま、末の息子は遠くに飛んで行ってしまいました。天狗はカンカンに怒りましたが、どうすることもできませんでした。
末の息子ははるか遠くへ飛んで行きました。そして大きなほら穴の前に降り立ちました。ほら穴から出てきたのは、大きな鬼でした。
「どうして俺のほら穴まで飛んできたのだ?」
「それは…、たいへんよい初夢を見たのです。でも、父に初夢の話をしなかったので、家を追い出されました。山道を歩いていたら、天狗に会って、遠くに飛んで行けるという蓑と傘をもらいました。この蓑と傘を使って飛んできたのです」
「それで、どんな初夢を見たのだ?」
鬼は末の息子が答えるのを待っていました…。
天狗の次は鬼、鬼の次は何が出てくるのでしょう?