エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
『一房の葡萄』第3話
一房の葡萄 第3話
先生は私たちを見て少し驚いたようでした。それでも先生は、ショート・ヘアに右手をやってから、いつの通りのやさしい表情で私たちを見ました。そして、何かあったのですかとでも言うように、首をかしげました。
そのとき、身体の大きい優秀な少年が一歩前に出ました。そして、ぼくがどうやってジムの絵の具を盗んだかをすべて話しました。
先生の顔は一瞬曇り、それから私たちを真剣な表情で見つめました。先生にまっすぐに見つめられた時、私は泣きそうになりました。先生は「本当ですか?」と尋ねました。
それは本当でした。でも、大好きな先生に私の悪い行いを知られたくはありませんでした。私は先生の質問に答えるかわりに泣き出してしまいました。
先生はしばらく私を見て、級友たちに向かって静かな声で言いました。
「みなさんはもう行っていいですよ」
級友たちは不満そうに、ぶつぶつ言いながら階段を下りていきました。
みんな行ってしまっても、先生は何も言わず、私の顔も見ず、指の爪を見ているだけでした。しかし、静かに私のとなりに来て、私を抱きよせました。そして静かな声で尋ねました。
「絵の具は返しましたか?」
返したことを先生に伝えたくて、私は大きくうなずきました。それから先生は言いました。
「これは誇れることではありませんよ。わかっていますね?」
これを聞いて、私は後悔の気持ちでいっぱいになりました。唇がふるえないように、じっとかみしめると、涙があふれてきました。先生の腕の中で死んでしまいたいと思いました。
「もう泣かないで。わかりましたよ。次の授業は出なくていいから、この部屋でお待ちなさい。私が戻ってくるまでここにいるのですよ、わかりましたか?」
先生は私をソファに座らせました。それから窓の外に腕を伸ばし、葡萄のつるから一房の葡萄を取りました。先生はそれを私のひざにのせると、静かに部屋を出ていきました。私はまだ泣き続けていました。
大好きな先生をがっかりさせてしまった。そう思うと気持ちが沈みました。葡萄を食べる気にはなれず、ひたすら泣きました。
誰かに肩をかるく揺すられて、私は目を覚ましました。私は先生の部屋で眠ってしまったのです。先生は私に微笑んでいました。私も少しだけ微笑みかけて、あわてて葡萄を引き寄せました。葡萄がひざから落ちそうだったのです。そして、自分のやったことを思い出しました。私の笑顔はすぐに消えました。
「そんなに悲しそうな顔をしないで。みんな帰りましたよ。あなたもお帰りなさい。それから、明日はどんなことがあっても学校に来なければいけません。明日あなたの顔が見えないと、先生はとても悲しくなります。きっと来るのですよ。わかりましたか?」
先生はそう言って、私のかばんに葡萄を入れました。
ラジオ・ドラマっていいですね。この音楽がまた何とも言えないノスタルジーを醸し出しています。もう、英語の勉強というより、文学鑑賞です!