英検1級・TOEIC900点からのNHK語学

英語講師です。通訳案内士試験合格しました。

エンジョイ・シンプル・イングリッシュ日本語訳『一房の葡萄』第2話

 

エンジョイ・シンプル・イングリッシュ

『一房の葡萄』第2話 

 

 

 

一房の葡萄 第2話

 

チャイムが鳴って、私はびっくりして立ち上がりました。窓の外を見ると、級友たちが笑いながら手を洗いに行くのが見えました。

私の頭の中は、氷のように冷たくなっていました。

私はジムの机に近づいて行き、机を開けました。まるで夢の中にいるようでした。あたりを見回してから、近くに誰もいないことを確かめました。そして木箱を開けて、すばやく青と赤の絵の具を取り出し、ポケットに押し込みました。

 

級友たちは教室に戻ってきました。私はジムの顔を見たかったのですが、どうしても見ることができませんでした。

 

f:id:eigo-learner:20180711110412j:plain

 

授業が始まりました。ふだんは若い先生の話を聞くのが好きなのですが、その日は先生の話がさっぱり理解できませんでした。先生が私を見ているように感じました。まるで、何かへんですね、と気づいているかのように。

 

再びチャイムが鳴って、授業が終わりました。終わってほっとしました。しかし、先生が教室を出ると、クラスで一番体が大きくて優秀な少年が私のところへ来て、肘をぐいとつかみました。

 

f:id:eigo-learner:20180711110515j:plain

 

彼は、ついて来い、と言いました。鼓動が速くなりました。それは、宿題を忘れて、先生に名前を呼ばれた時と同じ感覚でした。

 

私は校庭の隅に連れて行かれました。

「ジムの絵の具を取っただろう。出せよ」

彼の言葉を私は落ち着いて聞いていました。私は嘘をつきました。

「そんなもの、持ってないよ」

今度はジムが話しかけてきました。ジムの声はうわずっていました。

「昼食の前に木箱を確認したんだ。そのときは全部そろっていたんだよ。でも、昼休みの後、絵の具が2色なくなっていた。教室にいたのは君だけだったよね」

 

ああ、もうおしまいだ。頭に血が上って、顔が真っ赤になるのがわかりました。そのとき、誰かが私のポケットに手を入れようとしました。私はそれを止めようとしましたが、相手が多すぎました。

 

ポケットから出てきたのは、おはじきと、メンコと、ジムの絵の具でした。みんなは怒った目で私を見て言いました。

「言った通りだ」

私はがたがたと震え出し、まわりの世界がすべて真っ黒に感じました。他のみんなは休み時間を楽しく過ごしているのに、私は身体の内側から死んでいくようでした。

 

なんでこんなことをしてしまったのだろう。自分の弱さのせいだ。私は泣き出しました。

 

「泣いたって駄目だよ」

大きくて優秀な少年はきっぱり言いました。彼は明らかに私のことを嫌っていました。私は2階に引っ張って行かれました。そこには私の大好きな先生の部屋がありました。

 

ジムがドアをノックしました。先生の優しい声が聞こえました。

「お入りなさい」

私は入りたくありませんでした。そう感じたのは、これが最初で最後でした。

 

 f:id:eigo-learner:20180711110623j:plain

 

なぜか、デジャブを感じます。人の物を取ったことなんかないのに…。でも、この気持ち、経験したことがあるような気がします。