エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
『一房の葡萄』第2話
一房の葡萄 第2話
チャイムが鳴って、私はびっくりして立ち上がりました。窓の外を見ると、級友たちが笑いながら手を洗いに行くのが見えました。
私の頭の中は、氷のように冷たくなっていました。
私はジムの机に近づいて行き、机を開けました。まるで夢の中にいるようでした。あたりを見回してから、近くに誰もいないことを確かめました。そして木箱を開けて、すばやく青と赤の絵の具を取り出し、ポケットに押し込みました。
級友たちは教室に戻ってきました。私はジムの顔を見たかったのですが、どうしても見ることができませんでした。
授業が始まりました。ふだんは若い先生の話を聞くのが好きなのですが、その日は先生の話がさっぱり理解できませんでした。先生が私を見ているように感じました。まるで、何かへんですね、と気づいているかのように。
再びチャイムが鳴って、授業が終わりました。終わってほっとしました。しかし、先生が教室を出ると、クラスで一番体が大きくて優秀な少年が私のところへ来て、肘をぐいとつかみました。
彼は、ついて来い、と言いました。鼓動が速くなりました。それは、宿題を忘れて、先生に名前を呼ばれた時と同じ感覚でした。
私は校庭の隅に連れて行かれました。
「ジムの絵の具を取っただろう。出せよ」
彼の言葉を私は落ち着いて聞いていました。私は嘘をつきました。
「そんなもの、持ってないよ」
今度はジムが話しかけてきました。ジムの声はうわずっていました。
「昼食の前に木箱を確認したんだ。そのときは全部そろっていたんだよ。でも、昼休みの後、絵の具が2色なくなっていた。教室にいたのは君だけだったよね」
ああ、もうおしまいだ。頭に血が上って、顔が真っ赤になるのがわかりました。そのとき、誰かが私のポケットに手を入れようとしました。私はそれを止めようとしましたが、相手が多すぎました。
ポケットから出てきたのは、おはじきと、メンコと、ジムの絵の具でした。みんなは怒った目で私を見て言いました。
「言った通りだ」
私はがたがたと震え出し、まわりの世界がすべて真っ黒に感じました。他のみんなは休み時間を楽しく過ごしているのに、私は身体の内側から死んでいくようでした。
なんでこんなことをしてしまったのだろう。自分の弱さのせいだ。私は泣き出しました。
「泣いたって駄目だよ」
大きくて優秀な少年はきっぱり言いました。彼は明らかに私のことを嫌っていました。私は2階に引っ張って行かれました。そこには私の大好きな先生の部屋がありました。
ジムがドアをノックしました。先生の優しい声が聞こえました。
「お入りなさい」
私は入りたくありませんでした。そう感じたのは、これが最初で最後でした。
なぜか、デジャブを感じます。人の物を取ったことなんかないのに…。でも、この気持ち、経験したことがあるような気がします。