エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
赤い蝋燭と人魚 第1話
赤い蝋燭と人魚 第1話
人魚は南の海にだけ住んでいるのではありません。北の海にも住んでいます。北の海は深い青い色でした。
ある日、人魚は岩の上で休んでいました。
「ここはとてもさびしいところ。どうして人魚は冷たく暗い海の底で暮らさなけらばいけないのかしら? 人間は私たちと似ているのに、暗いところに住んでいないわ。なぜかしら」
この人魚は何年も話し相手がいないまま暮らしていました。お腹には赤ちゃんがいました。
「赤ちゃんには、私のように悲しい思いやさびしい思いをさせたくないわ。人間はやさしい生き物らしい。赤ちゃんを受け入れてもらえれば、ずっと守ってくれるでしょう。私の赤ちゃんは人間の世界で生きられる」
そう考えた人魚は、海岸でお産をすることに決めました。海の近くの小さな山には神社があって、その明かりが遠くからでも見えました。
海沿いには小さな町があって、さまざまなお店が並んでいました。その一つは老夫婦のろうそくやでした。おじいさんがろうそくを作って、おばあさんが売っていました。
町の人々や近くに住む漁師たちが神社にお参りに行くときに、いつも老夫婦の店でろうそくを買いました。
「もし山に神社がなかったら、ろうそくは売れなかったね」
「心の底から、神様に感謝しないといけないね」
ある晩、おばあさんが神社にお参りに行った帰りに、いつものように山を下りていました。月が美しく輝いていました。突然、おばあさんは石段の下で赤ちゃんが泣いているのを見つけました。
「まあ、かわいそうな赤ちゃん。だれがあなたを置いて行ったの? このまま放っておいたら神様のばちが当たる」
そう言っておばあさんは赤ちゃんを抱きあげ、家に連れて帰りました。家につくと、おじいさんにすべて話しました。おじいさんは言いました。
「赤ちゃんは神様からの贈りものにちがいない」
こうして、老夫婦は赤ちゃんを育てることに決めました。赤ちゃんは女の子でした。赤ちゃんの下半身は人間ではなく、さかなの形でした。老夫婦は、この赤ちゃんは人魚にちがいないとわかりました。そのような生き物のことを聞いたことがあったのでした。
「この赤ちゃんは人間ではない…」
「ええ。でもかわいらしい顔をしているわ」
「神様は私たちが子どもをほしがっているのをご存知だった。だからこの子を大切に育てよう。きっと賢い女の子になるだろうよ」
その日から、老夫婦は愛情をこめて赤ちゃんを育てました。赤ちゃんは大きくなるにつれて、黒い瞳とかがやくような黒髪の、やさしい賢い少女に成長していきました。
小学1年生のとき一回読んだだけですが、さし絵も物語全体の暗い雰囲気も、よみがえりました。「文学」との出会いだったのこも?