エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
橋
橋 The Bridge
すず「おじいちゃん! あちこち探してたのよ!」
祖父「すず! なんでわしを探してたんだ?」
すず「お母さんが心配してたの。買い物に行ったきり帰ってこないって」
祖父「ちょっと疲れたんで、休んでいるんだ」
すず「じゃあ、電話すればいいのに。おじいちゃん、迷っちゃったのかと思った」
祖父「ここはわしのふるさとだよ。わしはここで生まれて育ったんだ。自分のふるさとで迷ったりするものか!」
すず「あー、わかったから。おじいちゃん、自転車を橋の真ん中に停めちゃだめ。車が来たら止まらなきゃいけないでしょ」
祖父「だいじょうぶ。この橋は最近あんまり車が通らないから。すず、知ってるか? おじいちゃんがこの橋を作ったんだぞ」
すず「本当?」
祖父「そうだよ。だから、どこでも好きなところに自転車を停めていいのさ。欄干にこんなふうに座ったっていいんだ」
すず「おじいちゃん! あぶないよ、気をつけて!」
祖父「おい、すず。おじいちゃんはすずが思っているよりずっと強いんだぞ。びっくりしたか?」
すず「そうよ。ああ、びっくりした。それに、おじいちゃんがこの橋を作ったなんてびっくり」
祖父「ずいぶん前のことなんだが、大雨が降って、ここにあった木製の橋が流されちゃったんだよ。それで大変なことになったんだ。みんな川の向こう側に行けなくなっちゃったからね」
すず「ええーっ! 知らなかった」
祖父「それで町は、おじいちゃんが働いていた建設会社に新しい橋を作ってくれってお願いしてきたんだ。わしらのチームは毎日休むことなく一生懸命働いて、この新しい橋を作ったのさ」
すず「じゃあ、おじいちゃんは町の人たちのために尽くしたのね」
祖父「そう、その通り。それに、まあ、ガールフレンドに会いたかったんだよ」
すず「えっ?」
祖父「ガールフレンドは川の向こう側に住んでいたんだ。それが、一生懸命働いたもう一つの理由なんだ。頑丈な新しい橋を作りたかった。そうすればガールフレンドに会いに行くことができると思って」
すず「待って、そのガールフレンドって、おばあちゃんのこと?」
祖父「そうだよ。きれいだったよー。お嫁に来るとき、おばあちゃんは着物でこの橋を渡ってきたんだ。ああ、もう一度会いたいなあ。ときどきすごく淋しくなるよ」
すず「おじいちゃん…」
祖父「ああ、わしはこの橋みたいなものだ。見てごらん。みんな向こう側の新しい橋を使っているだろう。だれもこの橋なんか使いたくないのさ。わしみたいにもう役立たずなのさ」
すず「そんなことない! そんなこと言わないでよ」
女性「すみません。自転車をちょっとわきに寄せてもらえますか?」
すず「えっ? あ、はい、いいですよ」
女性「ありがとうございます」
祖父「あの、すみません。ちょっとお聞きしますが、どうしてこの古い橋を使うんですか?」
女性「ええと、この橋は車が少ないですし、私のようにベビーカーを押しているとこっちの方が安全ですからね。それに車いすの人や子どもたちもこっちの橋を使っていますよ」
祖父「ああ、なるほど。どうもありがとう」
女性「では、失礼します」
すず「おじいちゃん」
祖父「何だい?」
すず「おじいちゃんて本当にこの橋みたい」
祖父「どういう意味?」
すず「これからもずっと必要とされるってこと!」