エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
『空き箱 An Empty Box 』
空き箱 An Empty Box
私の夢は、マラソンの世界大会で優勝することだった。
高校のとき全国大会で3位になって、特別トレーニング・プログラムのメンバーに選抜された。毎日走って、マラソンのことだけ考えていた。とても速く走れるようになり、世界大会に出られると確信していた。
でも、そうならなかった。チームが出発する直前に、足を痛めてしまったのだ。それでマラソン選手としてのキャリアは終了。その後、私の心は空っぽになった。空き箱みたいに。布団から出る気力もなかった。
私を救ってくれたのは、コーチだった。私が新しい生活を始める準備ができるまで待ってくれた。決して、こうしなさいとか言わなかったけれど、いつもそばにいてくれた。
数ヶ月が過ぎて、私はもう空き箱ではなくなっていたことに気づいた。コーチは、少しずつ、私が自分を取り戻すのを手助けしてくれた。
そして彼は私の最愛の人になり、私たちは結婚した。彼はその後もランナーの指導をしていたけれど、私の前で走ることについては何も言わなかった。たぶん、私につらい思いをさせたくなかったのだろう。
2~3年が過ぎて、私の人生にもう一人メンバーが加わった。夫にそっくりな赤ちゃんだ。
私はとても幸せだった。でも、幸せは突然終わりを告げた。
最愛の人を失ったのだ。ある日、彼は仕事に出かけたまま帰ってこなかった。私はこわくなった。愛する人を失うなんて。
赤ちゃんまでいなくなったらどうしよう…。そして私は再び空き箱になった。この子を幸せにするためなら、なんだってやらなくては。
それ以来、私は一生懸命働いた。働きすぎて、夫の死を悲しむ時間もないくらいだった。
5年が過ぎた。ある日、新しい町へ引っ越す準備をしていたとき、夫の日記を見つけた。日記はクローゼットにあった。日記にはこんなことが書いてあった。
「彼女がもう一度走る姿を見たい…」
私は涙が止まらなかった。どうして生きている間に言ってくれなかったのだろう?
夫の日記を読んで、ある決心をした。私は、もう一度走る。地元のマラソン大会に向けて準備を始めた。「私は大丈夫だよ」と夫に見せたかった。
息子「本当にがんばってるよね、ママ! 心配ないよ!」
信じられない! 息子は夫にそっくりだ! 私は急に泣きたくなってきた。
息子「ママ? 大丈夫?」
母「うん。あなたがいるから。もう空き箱じゃないわ」
息子「は?」
私はもう二度と空き箱にはならない。夢はかなわなかったけれど、私の心は愛する人の思い出でいっぱいだ。それに、私には息子がいる。だから前に進める!
息子「ママー! がんばってねー!」
生きている間に…
………
存分に生きよう!