エンジョイ・シンプル・イングリッシュ
赤い蝋燭と人魚 第3話
赤い蝋燭と人魚 第3話
南からやってきた欲深い商人は、美しい人魚のことを聞いていました。ある日、商人は老夫婦の家に行き、言いました。
「人魚を売ってくれませんかね。謝礼はたっぷり払いますよ」
「あの子を売るだって⁉ ばかなことを言うんじゃない」
「あの子は神様からの贈りもの。売ることなんかできないよ。そんなことをしたらばちが当たる」
老夫婦は断りましたが、商人は何度も老夫婦を訪ねてきました。
「知らないのですか? 人魚は縁起が悪いんですよ。いつまでも人魚と暮らしていると、きっと悪いことが起こるでしょう」
老夫婦は、商人の言う縁起の悪い話を信じるようになりました。それに、たくさんの金も手に入れることができます。老夫婦は欲に負けました。商人に人魚を売る約束をしてしまったのです。
商人はうれしそうに言いました。
「すぐに人魚を引き取りに来ますよ」
これを聞いた人魚はショックを受けました。おとなしくてやさしい人魚はこわくなりました。家を遠く離れて、熱い南の地に行きたくありませんでした。人魚は老夫婦に泣きついて言いました。
「もっと一生懸命働きます。どうか私を売らないで、知らないところへ行かせないでください」
老夫婦の心は石のように冷たくなってしまいました。人魚の言うことを聞こうともしませんでした。人魚は自分の部屋に行き、戸を閉めました。人魚は部屋にこもって一日中ろうそくの絵を描きました。
月の明るいある晩、人魚は一人座って、波の音を聞いていました。この先のことがこわくなり、悲しくなりました。そのとき、波の間から、何かが呼び掛けているのが聞こえたように思いました。人魚は窓のところへ行き外を見ましたが、そこにはとても青い海があるだけで、水面には月が明るく輝いていました。
人魚は座ってまた描き始めました。ちょうどそのとき、外で音がしました。商人が来たのです。商人は荷車を持ってきていました。荷台には、鉄製の四角い檻が載っていました。商人が、トラやライオンやヒョウを運ぶのに使っていた檻でした。商人にとっては、人魚も同じ、海の動物にすぎなかったのです。
人魚はこのことを知りませんでした。知っていたら、どんなに驚いたことでしょう。人魚がまだろうそくの絵を描いていると、老夫婦が部屋に入って来ました。
「時間だ。行きなさい」
人魚は絵を仕上げる時間がなかったので、ろうそくを全部赤く塗ってしまいました。悲しい思い出に、赤いろうそくを数本残していきました。
静かで穏やかな夜でした。老夫婦は戸締りをして寝ました。
しばらくして、真夜中のことでした。老夫婦は誰かが戸を叩くのを聞きました。いったい誰だろうと思いました。
「どなたですか?」
「あかいろうそくとにんぎょ」は、『小学1年生〇月号』で読みました。小学1年生には、あの檻がショックでした…。それまで、「おむすびころりん」とか「うらしま太郎」ぐらいしか知らなかったので…。